HOME > 検証実験

検証実験

電解還元系の人工温泉水の皮膚および髪に与える効果温泉科学第55巻2号(2005)55-6

法政大学工学部物質化学科、2 健康保養地研究所、3 海洋大学海洋食品学科 大河内正ー1、大波英幸1、庄司未来1、大野慶晃1、池田茂男1、阿岸祐幸2、萩原知明3、鈴木 徹3 (平成 17 年 5 月 30 日受付、平成 17 年 8 月 23 日受理)

1.はじめに

これまで著者らは、ORP(酸化還元電位 ; Oxidation3Reduction Potential)と pH 関係に基づ いた新たな水評価法を提案してきた (大河内ら、1998、1999、2003 ; Okouchi et al. 2002 ; 大河内、2003)。その結果、① 温泉水、② 温泉水の浴用で一番大きな影響を受ける我々の皮膚、③ 皮膚の内 側の生体に存在する水 (生体水)、④ 生体を維持するために日々摂取している畜産肉類。魚介類。 果実。野菜類等の食品類はすべて還元系であることを明らかにした。 このように生物が還元系を持 つ理由として、従来酸素がない嫌気的還元系環境で誕生した生命が、その後の光合成生物により生 産された酸素によって好気的酸化環境へと推移してきた地球環境の歴史的変化に関与していると推 測される。 その変化の過程で、人類をはじめとした様々な生物が酸素や活性酸素による酸化ストレ スに対抗するため、体内に還元系を維持あるいは獲得してきた結果と考えられる。 それ故、生命体 にとって、還元系は大きな意味を有すると考えられる。そこで著者らは、特に生体に関わる水とし て "生体水" を、"弱酸性から弱アルカリ性で、抗酸化力を有する還元系の水" と定義した (大河内 ら、2003)。
生体水に類以した水を製造する方法として、筆者ら (大河内ら、2003) はイオン交換膜を用いた 隔膜式の電解槽を用い、水道水を電解し、生成した陰極水と陽極水を、直ちに活性炭槽に通す装置 を試作した。 この装置の基本的原理は、陽極側で生成される活性塩素や活性酸素により酸化系で酸 性となっている水を、活性炭に通すことによって酸化系活性物質を除去した後、それを陰極側で生 成される還元系でアルカリ性の水と、一緒に混合することで、ほぼ中性の抗酸化能を有する生体水 類以の電解還元系の水を製造することである。 このようにして製造した電解還元系の水を、人工温 泉水として浴用水に利用したところ、天然温泉と同様に、入浴後の皮膚の ORP は入浴前の ORP よ り低下し、皮膚の酸化および老化抑制の可能性が期待できる浴槽水が得られた。 これらのことから、この電解還元系の水は、温泉源泉の還元系という特性を有すると同時に、抗酸化能の機能を有する 人工温泉水として期待できることを提案した。 さらに、この電解還元系装置を用いることで、温泉 水の塩素殺菌と温泉本来の還元系を両立する可能性を有するシステムの提案を行なった。
今回、前述の原理に基づき製造した電解還元系の水を人工温泉水として用い、この水が皮膚や髪 などの生体に与える具体的な効果を検討した。 このことにより、還元系温泉水の新たな効果や効能 に関する推察が可能となるものと考えられる。


2.実験

2.1実験装置

Fig.1に実験装置図を示す。今回、実験装置を簡便化するため、前回の実験で使用したイオン交換膜を用いた隔膜式の電解装置ではなく(大河内ら、2003)、無隔膜式を採用した。無隔膜式でも、基本的原理は前報と同様で変わらず、電解装置の隔膜を取除いた電極間に、水道水を通水し、電解させ、直ちに活性炭槽を通す方式とした。このことにより、陽極近傍で生成された酸化系で酸性の水と、陰極近傍で生成された還元系でアルカリ性の水は混合されながら、活性炭により酸化系物質が取除かれることで、全体的に中和された還元系の水が製造される。隔膜が無いことから、隔膜の劣化も心配なく、また通水抵抗も低減できることから、流量の増加もより容易となる。Fig.2に、今回使用した水道水およびFig.1の無隔膜式装置で製造した浴槽水を含む電解還元系の水のORPとpHの範囲を示す。これらの結果は、前報でのイオン交換膜式の結果とほぼ一致した。

2.2 脂質の酸化抑制実験

イオン交換膜式装置で製造した水については、すでに抗酸化能が確認されている(大河内ら、2003)が、今回、無隔膜式装置(Fig.1)で製造した電解還元系の水では、抗酸化能の酸化抑制効果を具体的に確認する実験として、魚肉中の脂質の酸化抑制実験を行った。実験に供した魚は、専門小売庖より購入した新鮮な生のマアジで、内臓とエラを取り除き、電解還元系の水(Fig.2)で洗い、電解還元系の水を含ませた吸水シートで、全体を包み、3℃の冷蔵庫で貯蔵した。一定時間ごとに、マアジの脂質の酸化度をTBA(チオパルビツール酸)試験法(Asakawaand Matsushita2 1919 ; Pikul et al.2 1983)により評価した。この試験法は、主として多価不飽和脂肪酸の酸化から生成したノーオキサイドの分解生成物のマロンアルデヒド1分子が、酸性下で2分子のTBAと縮合して生ずる赤色物質を吸光度により評価するものであ る。コントロールとしては、電解還元系の水の代りに、水道水を用い、脂質の酸化度を同様の試験法で評価した。

電解還元系の水の製造装置図

Fig.1電解還元系の水の製造装置図

2.3入浴実験

水道水を加温(40℃)した浴用水(約200dm3)を用い、Fig.1に示す無隔膜電解装置に連結したモーター(流量10dm3/min)により10分間循環通水させて製造した電解還元系の浴用水に、ほぼ1日1回、5~15分程度の入浴で、2ヶ月間(10月初旬から12月初旬)入浴し、1ヵ月毎に皮膚のORP2水分量および弾力性の変化を測定した。なお、実験には5家族18人(20~12歳、男性7人、女性11人)に協力をお願いした。皮膚の水分量測定には、皮膚の角

水道水、電解還元系の水、電解陰極水、電解陽極水および温泉水のORPとpHの関係

Fig.2水道水、電解還元系の水、電解陰極水、電解陽極水および温泉水のORPとpHの関係

質層を介した静電容量測定に基づいた Corneometer CM82/PC (CourageKhazaka Electronic GmbH 社製)を用いた。また、皮膚の皮膚弾力性には、Cutometer SEM 575 (Courage Khazaka Electronic GmbH 社製)を用い、皮膚の粘弾性として測定した。この原理は、直径2mmの開口部を持つプローブ中に一定陰圧下で皮膚を吸引し、その皮膚の吸引高さと、吸引解除後の皮膚の戻った高さを比較することで、皮膚の粘弾性を求めるものである。

2.4毛髪の実験

毛髪は未処理(ノーマル毛)のものとブリーチ処理(ダメージ毛)した毛髪を、無隔膜式電解装置(Fig.1)で製造した電解還元系の水、水道水(遊離塩素濃度0.4~0.6ppm)、活性炭により処理した脱塩素水道水およびより塩素濃度の高いプール水(遊離塩素濃度0.8~1.0ppm)に浸し検討した。実験に供した毛髪を各々前述した。種類の水にそれぞれ10分間浸し、3分間送風乾燥後、1時間静置するという過程を30回繰り返した。
毛髪のブリーチ処理は、従来の市販処理剤を用い、アルカリ剤と過酸化水素により、メラニン色素を分解して、脱色処理を行なった。
毛髪の評価は、摩擦測定装置(動摩擦測定装置KES-SE、カトーテツク株式会社製)および3次元光沢度測定装置(自動変角光度計GP-200、(株)村上色材研究所製)を用いて行なった。前者は、スライドグラス上に毛髪の両端を固定して張った試料を、摩擦子として人工皮革(サプラーレ)により、10mm/sの速度で移動させ、その際の動摩擦係数を測定した。後者は、毛髪をホルダーに張り、45度の角度から光を照射し、37度の正反射強度Rと90度の散乱光の強度Sとの比(R/S)により評価した。さらに、柔軟性測定(ねじり応力測定装置KES-YN-1、カトーテツク株式会社製)および強度測定(引っ張り応力測定装置、KES-G1-SH、カトーテツク株式会社製)も行なった。なお、毛髪の評価は、25℃、相対湿度50%の条件下で測定した。


3.結果および考察

3.1電解還元系の水のORPとpHの関係

Fig.2に、今回実験に使用した水道水および浴槽を含めたFig.3の装置で製造した電解還元系の水のORPとpHの範囲を示した。なお、Fig.2の上下の実線は、それぞれ水の酸化分解(1式)および還元分解(2式)を表す境界線を、破線は著者らがこれまでに提案(大河内ら、1998)してきた水の平衡ORP(3式)を示す(1)-(3)式のORPは標準酸化還元電位(V)、温度は、25℃基準に換算した値である。

  • ORP=1.23-0.059....(1)
  • (O2+4H++4e⇔2H2O)
  • ORP=-0.059pH......(2)
  • (2H++2e⇔H2)
  • ORP=0.84-0.047pH(3)

Fig.2の破線または(3)式は平衡系、それらより上の領域は酸化系、下の領域は還元系を表す。水道水は殺菌用の塩素により、平衡 ORP より高い酸化系にあり、電解還元系の水は、その反対の還元系にあることが確認できた。

3.2脂質の酸化抑制効果

Fig.3に、魚 (マアジ)の脂質の酸化による赤色色素量の経時変化を示す。水道水では時間の経過

魚(マアジ)の指質酸化を表す赤色色素濃度の経時変化

Fig.3魚(マアジ)の指質酸化を表す赤色色素濃度の経時変化

変化により、魚の酸化脂質を表す赤色色素量が増加し、魚の酸化脂質が経時的に上昇するのに対して、電解還元系の水では酸化脂質の上昇が抑制される結果が得られた。それ故、電解還元系の水では、脂質の酸化を抑制する効果がある結果が得られた。前報(大河内ら、1998)で電解還元系の水に、抗酸化力が確認されていることから、今回の魚の脂質酸化抑制効果は、電解還元系の水の抗酸化力に基づくものと思われる(白畑、2000;Shirahata et al,1997)。我々の皮膚も、加齢にともない酸化されて酸化脂質が多くなること、また特に中高年以降では、それら酸化脂質は加齢臭の元となる2-ノネナール(俗称おじさん臭)を生成することが報告されている(土師。会津1999;奥ら、1999;奥、2001)。それ故、Fig.3の結果は電解還元系の水による人工温泉水や還元系の温泉水への継続的な入浴により、皮膚の脂質の酸化が抑制され、加齢臭および皮膚の老化抑制効果の可能性が期待できる。

3.3入浴による効果

Fig4から6に、2ヶ月間継続的に電解還元系の水による人工温泉水に入浴した家族(22歳の女子学生、51歳母親および53歳父親)の一例を示す。なお、それら浴用水のORPとpHの関係は、Fig.2の範囲内であった。
Fig.4には、皮膚(前腕屈側)水分量の結果の一例を示す。いずれも皮膚水分量は減少傾向を示した。これら皮膚水分量の減少傾向は、実験が10月から12月にかけての秋から冬に向かう時期で、大気湿度が大きく減少し、それに対応して皮膚水分量も大きく減少していく時期と一致した結果と考えられる。一方、足の甲の皮膚では、靴下や靴を履いていることから、皮膚水分量の季節的変化は見られなかった。
Fig.5およびFig.6には、2ヶ月間の継続的な入浴による皮膚の弾力性(粘弾性率)の変化を示した。腕の前腕屈側(Fig.5)および足の甲(Fig.6)のいずれの結果も、前者では10%~30%、後者では2倍近く弾力性が増す結果が得られた。皮膚の弾力性は、若い女子学生の方が両親より、また足の甲より腕の前腕屈側の方が、弾力性が大きいことを示している。
また、皮膚のORP値は人工温泉に入浴前と比較して、2ヵ月後ではORP値は僅かであるが下が

電解還元系の人工温泉水の入浴による皮膚水分量の経時変化

Fig.4 電解還元系の人工温泉水の入浴による皮膚水分量の経時変化。サンプル1;22才の娘、サンプル2;51才の母親、サンプル3;53才の父親

電解還元系の人工温泉水の入浴による皮膚粘弾性(前腕屈側)の経時変化

Fig.5 電解還元系の人工温泉水の入浴による皮膚粘弾性(前腕屈側)の経時変化

る傾向を示し、皮膚がより還元系にシフトする結果が得られた。これは前報(大河内ら、1999;2003)で、人工温泉水でも入浴直後に皮膚のORP値が下がる結果を裏づけ、継続的な入浴で皮膚はより還元系となり、皮膚の酸化抑制に効果があることを示した。他の。家族に対してもFig.4からFig.6に示す同様の傾向が観察された。
皮膚の弾力性は一般的に加齢に伴い減少していくことが知られている(西村、1992)。しかし、Fig.4に示すように皮膚の水分量が減少しているにもかかわらず、人工温泉水の継続的な入浴は、

電解還元系の人工温泉水の入浴による皮膚粘弾性(足の甲)の経時変化

Fig.5電解還元系の人工温泉水の入浴による皮膚粘弾性(足の甲)の経時変化

皮膚のORPの低下に基づいた酸化抑制を含めて皮膚の弾力性を向上させる結果を示した。このことは、皮膚の弾力性に影響を与える因子として多くのものが考えられるが、測定装置の特性から真皮内の豚原繊維(コラーゲン)や弾性繊維(エラティン)の変化が主と考えられる。これらの繊維は、活性酸素により破壊されて弾力性を失い、老化につながると考えられる。それ故、皮膚水分量の減少にも拘らず弾力性が向上していることから、これら繊維の何らかの回復に、電解還元系の人工温泉水が有効に作用したものと考えられる。

3.4毛髪に対する効果

ノーマル毛とダメージ毛について、ねじり応力測定による毛髪の柔軟性、引っ張り応力測定による毛髪の強度、動摩擦係数測定による毛髪の滑らかさ、および3次元光沢度測定による毛髪のツヤの評価を行なった。その結果、ノーマル毛とダメージ毛に対して、ねじり応力および引っ張り応力測定での毛髪の柔軟性および強度に差は見られず、一方動摩擦係数および-次元光沢度測定での髪の滑らかさおよびツヤに両者の差が明らかに観察できた。これは今回の毛髪のブリーチ処理では、毛髪の強さに関係する毛皮質(cortex)構造まで影響は与えず、毛髪表面の毛小皮(cuticle)に影響を与え、滑らかさでは約40%の減少およびツヤでは約60%の低下を与えた。毛髪のブリーチや染色をしている女性が、現在2割を優に越え、男性においても、若年齢層を中心にその割合が増加し、髪のダメージを抱えた人々が年々増えている。そこで、これらのノーマル毛とブリーチ処理したダメージ毛について2.4で述べた4種の水に対する効果を検討した結果、ノーマル毛ではこれら4種の水に対する影響は見られなかった。しかし、ダメージ毛では以下に示すようにこれらの水による相違が明らかに観察できた。
Fig.7に、ダメージ毛に対する動摩擦係数μの結果を示す。電解還元系の水で処理した毛髪では、コントロールの毛髪および水道水、脱塩素水道水、プール水でそれぞれ処理した毛髪の場合と比較して、μの値は小さくなり、摩擦が減少し、滑らかさが増す結果を示した。また、指先の感触による滑らかさの官能テストでも、電解還元系の水で処理した毛髪に滑らかさの有意性が確認できた。

毛髪の滑らかさを表す動摩擦係数mの水による相違

Fig.7 毛髪の滑らかさを表す動摩擦係数mの水による相違

毛髪のツヤを表すR/S比(散乱光に対する正反射光の強度比)の水による相違

Fig.8 毛髪のツヤを表すR/S比(散乱光に対する正反射光の強度比)の水による相違

またFig.8に、ダメージ毛に対する毛髪のツヤを表すR/S比(散乱光に対する正反射光の強度比)結果を示す。電解還元系の水で処理した毛髪では、他の水で処理した毛髪の場合と比較して、R/S比が大きくなり、毛髪のツヤが増す結果が得られた。すなわち、電解還元系の水は、ダメージ毛の毛小皮に働きかけ、滑らかさとツヤを増す作用をすることが確認できた。
電解還元系の水の肌や髪に与える影響は、活性炭により脱塩素されORP値が平衡系にある脱塩素水道水と比較しても、明らかにORP値が低い還元系以外は、水の溶解成分の違いも無いことから、そのメカニズムは抗酸化力を有する還元系が関係していると考えられる。しかし、これらの具体的なメカニズムについては、今後の検討課題である。


まとめ

今回、無隔膜式電解装置に水道水を通水し、直ちに活性炭でろ過する電解還元系の水を試作し、これらの水が与える、ORPの変化、脂質酸化や肌の弾力性および髪の滑らかさやツヤなどについての効果・効能を検討した。その結果、電解還元系の水には、以下の傾向が確認できた。

  • 1.脂質の酸化抑制
  • 2.人工温泉水として4ヶ月間の継続的入浴により、皮膚のORPの低下による皮膚の酸化抑制および弾力性の向上
  • 3.髪(ダメージ毛)の滑らかさおよびツヤの向上

以上のことから。実際の還元系の新鮮な温泉でも測定し、確認する必要があるが。電解還元系の水と同様の効果・効能が期待できると推察できる。


このページのトップへ